4月半ば。制作の隙をみて、お馴染みの山 畦ヶ丸にやってきた。
神奈川県民にとって西丹沢は行きやすく、そして、静かで豊かな山が楽しめる場所だ。
だから、一人になってゆっくり山を歩きたい時や、植物を観察したりスケッチをしたくなった時はついつい向かってしまう。
一方、東丹沢は賑やかで、平日に訪れても誰にも会わないなんてことは滅多にないだろう。
対岸の斜面のツツジが、春山への入り口だ。
芽吹いたばかりの木々は、近づいたり離れたりすると色が変化しているように見えた。
近目では艶のある黄緑だが、遠景は灰色味を帯びる。私は春山の、この色合いが大変好きなのだ。
堰堤を越えて行くと、ミツマタがちらほら現れ始める。
花の見頃はもう終わり。
小さな滝の周りにもほんのりと青みが増えてきていて、思わず顔がほころぶ。
小さいと侮ることなかれ、しぶきがこちらまで飛んでくる。落ちていく水の形を捉えたかったが難しかった。
この石は、下から順にジグザクだ。
山の中にまだ見ぬ形や色、リズムが見つかると嬉しい。
何回も足を運んでいても新しく発見するものがあり、また、ずっと同じ場所にある石や木は季節ごとの変化を楽しんでいる。
道すがら咲いていた、ミヤマキケマンとエイザンスミレ。
何かの芽。開きたてでツヤツヤしていた。
ろうそくの火が灯っているように見えた。この植物の名前はなんだろうか。いい形だ。
こっちはミミガタタテナンショウ。まだ若い。
植物観察をしながらゆっくり歩く。細い滝が見えてきた。
すると、幾何形態のような岩に出くわす。こんな岩あっただろうか。今まで気がついていなかったのか。
しかしまあ、この形が気になってしまったのでここでスケッチをする事にした。
ゆっくりと沢沿いを歩いていたので、今回は本棚の滝を見て引き返すことに。
沢沿いに生える木の新芽は赤みがあった。
ヨゴレネコノメ。
本棚へ向かう分岐の斜面は、岩を水が滴っていた。みずみずしい苔が群生しており、そこからシダや草花が顔を出している。
これは、終わりかけのネコノメソウか。
本棚は大きな滝で、いつ来てもその迫力に圧倒される。この春の日にもまた変わらずに、ごうごうと音を立てて流れ落ちていた。
反対側にも少しだけ水が流れていた。
それにしても、本棚直下に鎮座しているこの岩は、もうすぐ立方体になりそうな気配である。
期待して待ちたいと思うが、現実は削られる一方で丸くなってしまうんだろうと考えると、少し寂しい。
流れ始めの部分に、光が当たって眩しいくらいだった。
岩から角が生えているようなもの。
苔の刺繍。
ビジターセンター近くの堰堤まで戻ってきた。
山肌に桜が咲いている。ツツジも咲いている。新芽はフワフワとした萌黄色。春だ。これが春山だ。
本当にこの山は、いつ来ても気持ちがいいのだ。